雇用は最大の福祉である。

今から20数年ほど前、専業農家の叔父がこう言った。「お前達の将来は良くなるぞ。鉄腕アトムとか鉄人28号とか、ロボットが働いてくれる時代になる。人間は働かなくてもいい、ロボットがみんなやってくれる時代が来る。人間は遊んで暮らせる。」と。お掃除も、洗濯も、料理も、みんなロボットがやってくれる。建設も製造工場も農業も医療も介護も、みんなロボット。

1999年、ユニクロからフリースが発売され、その安さに皆びっくりし買い求め、ユニクロ現象と言う言葉さえ生まれた。安さの秘密は中国にあった。人件費の安い中国で、優秀な機械と、高い技術力を養成し、研究されたデザインのもとに製造されたものだった。この時、この叔父の言葉を思い出した。「全てはロボットが働いてくれる。人間は何もしなくていい」。全ては中国で作られる。人件費の高い日本は何も作らなくていい。「資源も市場もエネルギーも食糧さえ、海外に求めてきた日本の製造業が海外に行ってしまったら、日本はどうやって、エネルギーや食糧を買うのだろうか。」「すべてロボットがやってくれるのなら、人間はどうやって商品を、サービスを買うのだろうか。政府が分配してくれるのだろうか?」日本の就業人口の6割以上がサービス業である。サービス業はいわば、お互いの靴の磨きあいのようなものだ。日本の製造業が海外移転して、安い商品が輸入されるのは、消費者としては大歓迎である。しかし、気が付いたら、製造業の空洞化が進み、雇用が失われ、いくら安くても買うことができない状態になりかねない。雇用こそが大切なのだ。

一方、日本人の平均寿命は世界一である。100歳以上の人は、全国に2万人以上もいる。長生きの秘訣の一つに仕事がある。家庭で、農家で、年をとっていても、自分でできることは自分でやる。「この年寄りでも、私がいるからこの家がまわっていく。」生涯現役。雇用はまさに福祉でもある。

日本の国家財政は700兆円以上の財政赤字を抱えていると言う。この国民の借金は誰が返済していくのだろうか。国民の税金に他ならない。財政問題は雇用問題であり、雇用は最大の福祉である。雇用があれば暮らしていける。少しでも働いていれば、家族の、世の中の役に立っていると言う実感が、生きがいを作ってくれる。